
エレベーターの夢が持つ基本的な意味については、こちらの夢占い記事で解説しています。
この記事では、なぜエレベーターが、夢の中で「運気の急な変化」と「閉ざされた空間の落ち着かなさ」の両方を映すのかを、見知らぬ人と近づく場所での心の動きを見つめた二人の研究者の視点と、人々がこの箱に身をゆだねられるようになるまでの歴史から、掘り下げてみます。
見知らぬ人との近すぎる距離
一つ目の視点は、アメリカの文化人類学者エドワード・ホールです。
ホールは、人が他人とのあいだに無意識に保とうとする距離を調べ、恋人や家族だけを受け入れる「密接距離」、友人と話す「個体距離」、仕事の相手と接する「社会距離」などに分けて、人の周りには目に見えない「パーソナルスペース」があることを示しました。
エレベーターは、見知らぬ人と、本来なら恋人や家族にしか許さない距離まで近づかざるをえない、とても珍しい場所です。
目を合わせない「儀礼的無関心」
二つ目の視点は、アメリカの社会学者アーヴィング・ゴッフマンです。
ゴッフマンは1963年の著書で、見知らぬ人どうしが同じ場所に居合わせたとき、相手の存在に気づいていることは示しつつも、じろじろ見たり話しかけたりはしない、というふるまいに注目し、これを「儀礼的無関心」と名づけました。
エレベーターで、多くの人が扉の上の階数表示を見つめ、互いに目を合わせないのは、まさにこの儀礼的無関心の典型です。
相手を無視しているのではなく、近すぎる距離の中で、互いのプライバシーを守り合うための、静かな思いやりなのです。
ホールが、近づかれることへの「落ち着かなさ」の正体を明らかにしたのに対して、ゴッフマンは、その落ち着かなさを人々がどう「やりすごしているか」に目を向けたといえるでしょう。
気まずい夢、言葉を交わす夢
エレベーターの夢で、知らない人と乗って気まずかったなら、現実の人間関係の中で、自分の領域を守りたい気持ちが強くなっているのかもしれません。
反対に、誰かと自然に言葉を交わしていたなら、新しい縁へと心が開いているサインとも読めます。
では、人々はいつから、この箱に安心して身をゆだねられるようになったのでしょうか。
「みなさん、安全です」オーチスの安全装置
荷物を吊り上げる昇降機そのものは、古くからありました。けれど、人を乗せるには大きな問題がありました。
吊り下げているロープが切れれば、箱はそのまま落ちてしまうのです。この問題を解決したのが、アメリカの技術者エリシャ・オーチスでした。
オーチスは、ロープが切れると自動的に箱を止める安全装置を考え出し、1850年代半ば、ニューヨークの博覧会で、人々の目の前で自ら乗りこんだ昇降機のロープを切らせてみせました。
箱は落ちることなく止まり、オーチスは「みなさん、安全です」と呼びかけたと伝えられています。
1857年には、ニューヨークのビルに、乗客用の安全なエレベーターが初めて設けられました。エレベーターが安全になったことで、人々はもっと高い建物に住み、働けるようになり、やがて高層ビルが立ち並ぶ街並みが生まれていきます。
凌雲閣とエレベーターガール
日本では、1890年に浅草の展望塔「凌雲閣」に、初めての電動式エレベーターが設けられたといわれています。
また1929年には、東京・上野の百貨店、松坂屋で、乗客を案内する女性の係員が登場しました。
これが日本の「エレベーターガール」の始まりとされています。見知らぬ箱に乗る不安を、人の温かな案内が和らげてくれた時代でした。
近づきすぎる距離への落ち着かなさと、それをやりすごす静かな思いやり。ロープが切れても落ちない安心を、人々の前で示した技術者。
そして、不安を和らげる案内とともに広まっていった日本のエレベーター。エレベーターの夢は、あなたがいま、どんな箱に身をゆだね、誰とどんな距離で、次の階へ向かおうとしているのかを、そっと問いかけているのかもしれません。
ここまでの内容をもとにした、SF仕立ての創作ストーリーは、こちらの夢物語でお楽しみいただけます。
よくある質問
エレベーターで知らない人と乗ると、夢でも現実でも緊張してしまいます。
ホールの研究に照らせば、見知らぬ人と近い距離にいて緊張するのは、ごく自然な反応です。多くの人が同じように感じているからこそ、ゴッフマンのいう儀礼的無関心のように、互いに目を合わせないふるまいが自然と生まれます。
緊張する自分を責める必要はありません。夢の中で強い緊張を感じたなら、現実でも、人との距離にいつも以上に気を張っていないか、少し振り返ってみてください。
エレベーターが落ちない安全装置の話を知ると、夢の意味も変わりますか?
エレベーターは、オーチスの安全装置のように、何重もの仕組みで守られている乗り物です。
夢の中でエレベーターに不安を感じたとしても、それは実際の危険を予告しているのではなく、あなたの心が、自分ではコントロールできない状況に身をゆだねることへの戸惑いを映していると読むことができます。
安心して乗れていた夢なら、周りの支えを信頼できている証拠として、前向きに受け止めてみてください。

