【夢物語】選択代行、本日休業|選ぶ夢

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【夢物語】選択代行、本日休業|選ぶ夢

夢の中で、私は果てしなく続く棚の前に立っていた。

棚には、色とりどりのジャムの瓶が、地平線の向こうまで並んでいる。いちご、ブルーベリー、マーマレード、見たこともない紫色のもの。一つ選ばなければ、と思うのに、手を伸ばすたびに、隣の瓶のほうがおいしそうに見えてくる。

ふと足もとを見ると、一頭のロバが立っていた。ロバの右と左には、まったく同じ大きさの干し草の山がある。ロバは、首を右に向け、左に向け、また右に向けて、どちらにも口をつけられずにいた。

「あなたも、決められないの?」

ロバは、悲しそうな目で私を見上げた。

――目が覚めると、枕元の端末が、ぴこん、と鳴った。

西暦二一六〇年。私たちの暮らしには、選択代行サービス〈チョイス〉が欠かせない。朝起きると、〈チョイス〉が、その日の天気と体調と予定に合わせて、着る服を選んでくれる。朝食も、通勤の道順も、昼食のメニューも、夜に観る映画も。迷う時間がなくなったおかげで、人々の暮らしは、ずっと効率的になった。

私、柚希も、もう何年も、自分で何かを選んだ記憶がない。

端末の画面には、見慣れない表示が出ていた。

――〈チョイス〉は本日、定期メンテナンスのため休業いたします。本日の選択は、お客様ご自身でお願いいたします。

自分で、選ぶ。

クローゼットを開けた瞬間、めまいがした。三十着の服が並んでいる。どれも、〈チョイス〉が選んで買ったものだ。どれを着ればいいのか、まったくわからない。結局、いちばん手前にかかっていた服を着て、家を出た。

本当に困ったのは、昼休みだった。

社員食堂の端末には、三百種類のメニューが並んでいる。いつもなら〈チョイス〉が一秒で決めてくれるのに、今日の私は、画面の前で十分以上、指を止めたままだった。カレー、パスタ、定食、季節の限定メニュー。どれを選んでも、選ばなかったほかのものが、頭の中でちらつく。

後ろに並んでいた人たちが、ため息をつきはじめた。

「三つに絞ってみたら?」

声をかけてくれたのは、隣の部署の野々村さんだった。年配の社員で、〈チョイス〉を使わない、少し変わった人として知られている。

「三つ、ですか」

「全部を比べようとすると、いつまでも決まらないからね。まず、いま食べたいものを三つだけ選ぶ。そのなかから、これで十分って思えるものを一つ」

言われるままに、私は、カレーと、焼き魚の定食と、きつねうどんを選んだ。三つに減っただけで、画面がずいぶん見やすくなった。それでも、最後の一つが決められない。

野々村さんは、ポケットから小さなサイコロを取り出した。

「どうしても決まらないときは、これに任せる。一と二ならカレー、三と四なら定食、五と六ならうどん」

「サイコロで、決めるんですか」

「昔の人は、大事なことでもくじで決めたんだよ。神さまに任せる、ってね」

野々村さんが転がしたサイコロは、五を出した。

きつねうどんが運ばれてきて、一口すすった瞬間、私は少しだけ、がっかりした。本当は、カレーが食べたかったのだ。

そのことに気づいて、私は思わず笑ってしまった。

「サイコロが決めてくれたから、自分が本当は何を食べたかったのか、わかりました」

「そういうことも、あるよね」

野々村さんも、楽しそうに笑った。

午後、私はひとつ、大きなことを選んだ。ずっと会っていなかった学生時代の友人に、自分からメッセージを送ったのだ。〈チョイス〉は、彼女との連絡を「優先度・低」に分類していた。でも、今日の私は、会いたいと思った。その気持ちに、理由はいらなかった。

翌朝、〈チョイス〉は元どおりに動き出した。服も、朝食も、道順も、また一秒で決めてくれる。

私は設定画面を開いて、ひとつだけ、項目を変えた。

――昼食の選択:お客様ご自身で選ぶ。

その夜、また夢を見た。果てしないジャムの棚と、あのロバ。

私は棚の前で、三つの瓶だけを手に取った。それから、ロバの横にしゃがんで、右の干し草を少しだけ、ロバの口もとに寄せてあげた。

ロバは、ようやく安心したように、干し草を食べはじめた。

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選ぶ夢が持つ本来の意味についてはこちらの夢占い記事で、シュワルツの『選択のパラドックス』やアイエンガーの研究、「ビュリダンのロバ」のたとえ話、くじ引き将軍やおみくじの由来についてはこちらの夢ことほぎ記事で、それぞれ詳しく解説しています。

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