
絵を描く夢が持つ基本的な意味については、こちらの夢占い記事で解説しています。
この記事では、なぜ絵を描くことが、夢の中で「言葉にならない思い」と「創造のエネルギー」を映すのかを、子どもの絵を見つめた二人の研究者の視点と、人類が太古の昔から絵を描きつづけてきた歴史、そして生涯をかけて描くことに向き合った日本の画家の言葉から、掘り下げてみます。
子どもの絵は、世界の見え方を映す
一つ目の視点は、フランスの哲学者で心理学者のジョルジュ=アンリ・リュケです。リュケは、自分の娘が描いた絵を長年にわたって集めて調べ、1927年に『子どもの絵』を著しました。
リュケによれば、子どもはまず、なぐり描きの線の中に、偶然何かの形を見つけて喜ぶ段階から始まります。
やがて、知っていることを描こうとする段階を経て、目に見えるとおりに描こうとする段階へと進んでいくといいます。
子どもの絵は、上手か下手かではなく、その子が世界をどう理解しているかを映す鏡だと考えたのです。
線を描き足し合う「スクイグル」
二つ目の視点は、イギリスの小児科医で精神分析家のドナルド・ウィニコットです。ウィニコットは、子どもとの面接で「スクイグル・ゲーム」と呼ばれる遊びを用いました。
まず一人が紙にくねくねとした線を描き、もう一人がその線に描き足して、何かの形に仕上げていく。
これを交互にくり返すうちに、言葉ではうまく話せない子どもの気持ちが、絵の中に自然と表れてくるのです。
リュケが、絵を「世界をどう見ているかの記録」として見つめたのに対して、ウィニコットは、絵を「人と人とが心を通わせる手段」として用いたといえるでしょう。
一人で描く夢、誰かと描く夢
絵を描く夢で、一人で黙々と描いていたなら、あなたの心は、自分が世界をどう見ているかを確かめようとしているのかもしれません。
誰かと一緒に描いていたなら、言葉を超えて、誰かと気持ちを分かち合いたいと願っているのかもしれません。
一万七千年前のラスコーの壁画
人が絵を描きはじめたのは、文字よりもずっと昔のことです。1940年、フランス南西部で、少年たちが森の中で見つけた洞窟の奥に、牛や馬、鹿などを描いた数多くの壁画が眠っていました。
およそ一万七千年前に描かれたとされる、ラスコーの洞窟壁画です。暗い洞窟の奥で、小さな灯りを頼りに描かれた動物たちは、狩りの祈りだったとも、物語を伝えるためだったともいわれますが、その本当の意味はわかっていません。
ただ、人が絵を描かずにはいられない生き物であることを、何よりも雄弁に物語っています。
墨の線で動物が躍る『鳥獣戯画』
日本でも、平安時代の終わりから鎌倉時代にかけて描かれたとされる『鳥獣戯画』が、京都の高山寺に伝わっています。
うさぎやかえる、猿たちが、まるで人間のように相撲をとったり、水遊びをしたりする姿が、生き生きとした筆の線で描かれています。
誰が描いたのかははっきりしていませんが、墨の線一本で動物たちを躍動させるその絵は、今も多くの人を笑顔にしています。
百歳を過ぎても描きたかった北斎
そして、描くことに生涯を捧げた画家として、葛飾北斎の名を忘れることはできません。北斎は、七十代半ばで刊行した『富嶽百景』の終わりに、自分が七十歳より前に描いたものは、取るに足らないものばかりだったと書き記しました。
そして、八十歳でさらに進み、九十歳で奥義をきわめ、百歳を過ぎれば、描いた一点一画が生きているようになるだろう、と続けたのです。
何歳になっても、まだ描き足りない。北斎の言葉には、描くことへの尽きない情熱があふれています。
世界の見え方を映す子どもの線と、心を通わせるなぐり描き。一万年以上前の洞窟に残された祈りの絵。そして、生涯描き足りなかった画家の情熱。絵を描く夢は、あなたの中にある「描かずにはいられない思い」が、いま、どんな形になりたがっているのかを、そっと問いかけているのかもしれません。
ここまでの内容をもとにした、夢の意味をたどる創作ストーリーは、こちらの夢物語でお楽しみいただけます。
よくある質問
絵が上手に描けなくても、絵を描く夢は良い夢なのでしょうか?
リュケが子どもの絵を、上手か下手かではなく、世界の見え方を映すものとして大切にしたように、絵を描く夢でも、上手さはあまり重要ではありません。
大切なのは、描いているときの気持ちです。楽しんで描いていたなら、心が自由に動いているサイン。
うまく描けずにもどかしかったなら、伝えたいことがあるのに、まだ形が見つかっていないのでしょう。
どちらも、あなたの心が動いている証です。
夢の中で誰かと交互に絵を描き足していました。どんな意味がありますか?
交互に描き足していく夢は、ウィニコットのスクイグル・ゲームのように、言葉を使わずに誰かと気持ちを通わせたいという願いを表していると読むことができます。
相手が知っている人なら、その人と、もっと深いところでわかり合いたいと感じているのでしょう。
楽しく描き足せていたなら、関係が温かく育っていく吉兆です。言葉にしづらい気持ちほど、一緒に何かを作る時間が、心をつないでくれます。
