人間はものの数秒で別の記憶を創作できてしまう？

　

　あなたは自分がしっかりと記憶していたことが、誰かと共有した時に相違があったり、思い違いをしていた、なんてことはありませんか？

　カメラで撮っていたり、録音していたりしていれば別ですが、人間の記憶というものは大変曖昧で、真実を別なものを思い込んでいる、ということが少なくありません。
　これは忘れてしまうような過去の出来事に対してのみ起きる現象なのでしょうか？　いいえ、実はそうではないようです。

　オランダのとある研究チームが「人はたった数秒前に見たものでもニセの記憶を作ってしまうことがある」ということを実験により明らかにしました。

　人間の記憶はかなり不正確で、曖昧なものです。
　この事自体は過去数十年の研究で示されており、そもそも存在していなかったような出来事を、記憶の中で捏造してしまうことも珍しくないことがわかっています。

　こういった研究の多くは長期的な記憶に焦点を当てたものがほとんどだったのですが、アムステルダム大学の認知心理学者であるMarte Otten氏らの研究チームは、短期記憶における潜在的な不確かさを調べる研究に取り組みました。

どんな研究だったのか？

　今までの研究で被験者に「回転した文字」もしくは「反転した文字」を見せた場合、被験者は「正しい形の文字を見た」と誤って記憶することが多いということがわかっています。
　この現象は、記憶ではなく知覚のミスだと考えられてきましたが、Otten氏らは被験者が瞬時に「偽の記憶」を作った可能性があると仮説を立てました。
そして、数百人の被験者を対象に

1. 基本的な視覚認識タスクを完了できることを確認した被験者に対し、6個もしくは8個の文字が円形に並んだ「図1」を見せ、「図1」が消えてから0.75秒または3秒後に、円のどこに位置していた文字が思い出すべきものなのかを提示。
   　その1.5秒または3.75秒後に「図1」とは別の文字が記された「図2」を見せて、「図2」が消えた後で候補となる複数の選択肢を提示し、候補の中から思い出すべき「図1」の文字がどれかを選ばせました。
   
2. 円形に文字が並んだ「図1」が消えてから0.75秒後に、「図2」と共にどこの文字が思い出すべきものなのかが提示されるバージョンも行われました。

※「図1」や「図2」に表示された文字のうち1個か2個は、アルファベットが反転したものになっていたとのこと。

　これらをして、被験者に自分の回答がどれほど正しい自信があるのかを4段階で評価してもらう。

実験結果

「回答に自信がある」と評価した23人の被験者が最もよく犯したミスは、文字の反転・非反転の選択ミスで、反転文字だった時に被験者が「正常な文字を見た」と誤答する割合は37％、正常な文字だった時に「反転した文字を見た」と誤答する割合は11％でした。

さらに実験とその結果

　研究チームはさらに、正常な文字に反転文字を混ぜた図を被験者に見せ、後から特定の文字を思い出してもらう複数の実験も行っています。
　すると、この実験結果でも同じような傾向が見られたそうです。（思い出す対象が正常な文字の場合の誤答率は約10％、反転文字の場合は約40％ほどだった。）
　また文字が消えてから、思い出してもらうまでの時間が長いほど誤答率は上昇したが、これも反転文字だった場合に限られた。

研究チームの結論

　これらの結果から、被験者のミスが見た目の類似性による「知覚の誤り」ではなく、アルファベットに関する事前知識によって引き起こされた「短期記憶の誤り」によるものだと結論付けました。

Otten氏は
「たとえ短期間であっても、私たちの記憶は完全に信頼できるものではないかもしれません」
「特に、世界がどうあるべきかという強い期待を持っている場合、記憶が少し薄れ始めると、それが数秒後であっても期待に基づいて記憶を補い始めるのです」
「つまり、正しく対象を見たにもかかわらず、それを記憶した途端におかしくなってしまうのです」と述べています。

False Memories Can Form Within Seconds, Study Finds

https://gizmodo.com/false-memories-can-form-within-seconds-study-finds-1850303900

Human memory may be unreliable after just a few seconds, scientists find | Neuroscience | The Guardian

https://www.theguardian.com/science/2023/apr/05/short-term-memory-illusions-study