【夢物語】窓辺のモンステラ|観葉植物の夢

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【夢物語】窓辺のモンステラ|観葉植物の夢

わたしは、モンステラ。この部屋の窓辺に来て、もうすぐ一年になる。

わたしを連れてきたのは、遥という名前の女の人だ。去年の春、駅前の花屋で、まだ小さかったわたしを見つけて、少し迷ってから、抱えて帰ってくれた。あの日の遥は、目のまわりが赤かった。あとで知ったけれど、長く付き合っていた人と、別れたばかりだったらしい。

はじめのころ、遥は、毎朝わたしに水をくれた。葉を指でなでて、「きれいだね」と言ってくれた。

けれど、夏が過ぎたころから、遥は、だんだん帰りが遅くなった。部屋の明かりがつくのは、夜の十一時を過ぎてから。遥は、わたしの前を素通りして、ベッドに倒れこむ。土は、何日も乾いたままになった。

わたしの葉は、少しずつ、下を向きはじめた。

ある晩、遥は、ベッドの上で、うなされていた。

あとで、遥が独り言のように話していたのを聞いた。夢の中で、部屋じゅうの植物が、茶色く枯れていく夢を見たのだという。窓辺のわたしも、ぐったりと葉を垂らしていた、と。

その朝、遥は、久しぶりに、わたしの前に立った。

「……ごめんね」

遥は、乾いた土に、ゆっくりと水を注いだ。冷たい水が、根の先まで、しみこんでいく。わたしは、思わず、体じゅうで息をついた。

その日から、遥は、また毎朝、わたしの前に立つようになった。

わたしは、遥の朝を見ていた。水をやりながら、遥は、ぽつりぽつりと、わたしに話しかけるようになった。

「今日は、会議で、言いたいこと言えなかった」
「隣の部署の人に、また仕事を押しつけられた」
「……でも、帰りに見た夕焼けは、きれいだったな」

わたしは、何も答えられない。けれど、遥は、話し終えると、いつも少しだけ、すっきりした顔をしていた。

秋の終わり、遥は、わたしを大きな鉢に植え替えてくれた。

休日の午後、窓辺に新聞紙を広げて、遥は、土だらけになりながら、わたしの根を、ていねいにほぐしていった。

「なんだか、落ち着くね、これ」

遥は、土に触れながら、ふっと笑った。仕事のことを話すときの、こわばった顔ではなかった。指先についた土の匂いを、遥は、しばらく楽しむように嗅いでいた。

広い鉢に移されたわたしの根は、のびのびと、新しい土の中へ伸びていった。

十二月のはじめの夜、遥のスマホが鳴った。画面を見た遥は、しばらく動かなかった。別れた人の名前が、表示されていたらしい。

遥は、電話に出なかった。鳴りやんだスマホを伏せて、わたしの前の床に、膝を抱えて座りこんだ。

「……出たら、また、前の私に戻っちゃう気がしたの」

遥は、わたしの一番下の葉に、そっと額をつけた。少しだけ、肩が震えていた。わたしは、ただ、そこにいた。葉の先から、昼間にためておいた、かすかな温もりを、遥のほうへ向けながら。

しばらくして、遥は顔を上げ、目をこすって笑った。

「植物の前で泣くの、初めてかも」

その夜、遥は、本棚の奥にしまってあった、二人で写った写真立てを、静かに引き出しにしまった。そして、空いた場所に、小さなランプを置いた。冬の夜、わたしの葉を、やわらかく照らすためのランプだった。

遥は、仕事から帰ると、まずランプをつけて、わたしの葉を眺めるようになった。それから、上着を脱ぐ。それが、遥の新しい「ただいま」だった。

冬が来て、わたしは、新しい葉を一枚、ゆっくりと広げた。

その葉には、わたしにとって初めての、大きな切れこみが入っていた。

「わあ、穴があいてる」

遥が、驚いたように、葉をのぞきこんだ。

モンステラの葉に切れこみが入るのは、株が十分に育ったしるしだ。葉に穴があることで、強い風を受け流し、下の葉にも、光を届けることができる。わたしは、それを、遥に伝えたかった。

完璧に閉じていなくても、いい。すき間があるから、光が通るのだと。

遥は、スマホで、わたしの葉の写真を撮った。それから、少し考えて、誰かにメッセージを送った。

数日後、部屋に、初めてのお客さんが来た。隣の部屋に住む、同い年くらいの女の人だった。廊下ですれ違うたびに、あいさつだけはしていたらしい。

「この子、すごく元気ですね」

お客さんは、わたしの葉を見上げて、目を細めた。

「前は、枯らしかけたんですけどね」

遥は、照れくさそうに笑った。二人は、窓辺に並んで、紅茶を飲みながら、長いこと話をしていた。植物のこと、仕事のこと、休日の過ごし方のこと。

わたしは、二人の笑い声を、窓辺で聞いていた。この部屋に、遥以外の笑い声が響いたのは、わたしが来てから初めてのことだった。

その夜、遥は、ベッドの中で、また夢を見ていたようだった。

翌朝、水をやりながら、遥は、わたしに話してくれた。

「今度は、いい夢だったよ。部屋じゅうが、緑でいっぱいになって、窓から、明るい光が差しこんでくるの。あなたの葉の穴から、光がこぼれて、床に、きらきらした模様ができてた」

遥は、わたしの新しい葉を、そっと指でなでた。

「ありがとう」

わたしは、窓から差しこむ朝の光を、葉いっぱいに受けとめた。そして、葉のすき間から、その光を、遥の足もとへと、そっと落とした。

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