
選ぶ夢が持つ基本的な意味については、こちらの夢占い記事で解説しています。
この記事では、なぜ何かを選ぶことが、夢の中で「決断のとき」と「迷いの重さ」の両方を映すのかを、選ぶことの難しさを見つめた心理学の研究、昔から哲学者たちを悩ませてきた選択の思考実験、そして、迷ったときに人が頼ってきた「くじ」の文化から、掘り下げてみます。
選択肢が多すぎると苦しくなる
一つ目の視点は、アメリカの心理学者バリー・シュワルツが2004年に著した『選択のパラドックス』です。シュワルツは、選択肢が増えれば人は幸せになるはずだという考えに疑問を投げかけ、選べるものが多すぎると、かえって人は迷い、選んだあとにも「もっといいものがあったのでは」と後悔しやすくなると論じました。
シュワルツはさらに、人を二つのタイプに分けて考えています。いつも最善の選択を求めて、すべての選択肢を比べようとする「マキシマイザー」と、自分なりの基準を満たせば、それで満足できる「サティスファイサー」です。
この「ほどほどで満足する」という考え方は、もともと経済学者で心理学者のハーバート・サイモンが示したもので、シュワルツの研究では、マキシマイザーのほうが、よい選択をしても満足感が低くなりやすいことが報告されています。
誰が選ぶかで変わる意欲
二つ目の視点は、コロンビア大学の心理学者シーナ・アイエンガーの研究です。アイエンガーらは、子どもたちにパズルを解いてもらう実験で、パズルを自分で選んだ場合と、母親が選んだ場合を比べました。
すると、欧米系の子どもたちは自分で選んだときに最も意欲的に取り組んだのに対して、アジア系の子どもたちの中には、信頼する母親が選んでくれたときに、いちばん熱心に取り組む子が多かったのです。
何を「自分で選ぶ」ことが大切だと感じるかは、育った文化によっても違うことが示されました。
シュワルツが「選択肢の多さがもたらす重さ」に目を向けたのに対して、アイエンガーは「誰が選ぶのか」という関係の大切さに目を向けたといえるでしょう。
迷い続ける夢、選んでもらう夢
選ぶ夢でいつまでも迷っていたなら、あなたの心は、選択肢の多さに疲れているのかもしれません。
また、誰かに選んでもらう夢を見たなら、それは決して弱さではなく、信頼する人に委ねたいという、自然な心の動きの表れとも読めます。
干し草のあいだで動けない「ビュリダンのロバ」
選ぶことの難しさは、昔から哲学者たちをも悩ませてきました。ヨーロッパには、「ビュリダンのロバ」と呼ばれる有名なたとえ話があります。
お腹をすかせたロバが、まったく同じ距離に置かれた、まったく同じ量の干し草の山のあいだに立っています。
どちらにも優劣がないため、ロバはどちらを選ぶこともできず、とうとう飢えてしまう、というものです。
十四世紀の哲学者ジャン・ビュリダンの名で呼ばれていますが、本人の著作にこの話そのものは見当たらないともいわれています。
完璧に選ぼうとするほど、人は動けなくなる。このたとえ話は、何百年も前から、そのことを伝えてきたのです。
くじで神さまに委ねた決断
では、日本の人々は、決めかねるときにどうしてきたのでしょうか。
日本では、人の力では選びきれないことを、くじによって神さまに委ねる習わしがありました。室町幕府の六代将軍・足利義教は、跡継ぎが決まらなかったとき、石清水八幡宮の神前でくじを引いて選ばれ、「くじ引き将軍」と呼ばれました。
また、神社やお寺で引くおみくじは、平安時代の天台宗の僧・元三大師(良源)が始めたものが起源だとする説が知られています。
迷いを一人で抱えこまず、自分を超えた大きな流れに託すことで、心を軽くする知恵だったのかもしれません。
選択肢の多さがもたらす重さと、誰に選んでもらうかという信頼。完璧を求めて動けなくなるロバのたとえ。そして、迷いを神さまに委ねてきたくじの文化。選ぶ夢は、あなたがいま、何を選び、何を手放そうとしているのか、そしてその選択を一人で背負いすぎていないかを、そっと問いかけているのかもしれません。
ここまでの内容をもとにした、SF仕立ての創作ストーリーは、こちらの夢物語でお楽しみいただけます。
よくある質問
自分は迷ってばかりで、決めるのが苦手です。どうすればいいですか?
シュワルツの研究に照らすと、迷いやすい人の多くは、最善の答えを探そうとするマキシマイザーの傾向を持っています。
決めるのが苦手なのではなく、真剣に考えすぎているのかもしれません。小さなことから「これくらいなら十分」と思える基準を自分で決め、それを満たしたら選ぶ練習をしてみてください。
選んだあとは、選ばなかったものを振り返りすぎないことも、心を軽く保つ助けになります。
夢の中でくじを引いて選んだのは、何かを任せたい気持ちの表れですか?
くじで選ぶ夢は、決断の責任を一人で背負うことに疲れていたり、自分では決めがたい状況を、大きな流れに委ねたいと感じていたりする心の表れと読むことができます。
足利義教がくじで選ばれたように、人は昔から、迷いを手放す方法としてくじを使ってきました。ただ、任せきりにするのではなく、くじの結果を受けて、自分がどう感じたかを大切にしてみてください。
その気持ちに、本当の望みが隠れています。

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