
絵の具の夢が持つ基本的な意味については、こちらの夢占い記事で解説しています。
この記事では、なぜ絵の具が、夢の中で「表現したい気持ち」と「いまの心の色」を映すのかを、色を光の性質として見るか、人の感じ方として見るかという二つのまなざし、色を描くことで心を整えようとした心理学の歩み、そして絵の具そのものがたどってきた歴史から、掘り下げてみます。
ニュートンの色と、ゲーテの色
色とは何か。この問いに、まったく違う角度から答えた二人の人物がいます。
一人は、イギリスの科学者ニュートンです。ニュートンは、プリズムで太陽の光を分けると虹のような色の帯が現れることを確かめ、1704年に刊行した『光学』の中で、白い光はさまざまな色の光が混ざり合ってできていると論じました。色を、光の物理的な性質として説明しようとしたのです。
もう一人は、ドイツの文豪ゲーテです。ゲーテは1810年に『色彩論』を著し、ニュートンの説に強く反論しました。
ゲーテが注目したのは、色が人の目と心にどう感じられるかでした。黄色は明るく温かい気持ちを、青は静かで遠くへ引きこまれるような気持ちを呼び起こす。
色は、見る人の心と切り離せないものだと考えたのです。
ニュートンが「色そのもの」を説明しようとしたのに対して、ゲーテは「色を感じる人の心」を見つめたといえるでしょう。絵の具の夢で、ある色が強く印象に残ったとき、その色が持つ一般的な意味よりも、あなたがその色からどんな気持ちを受け取ったかを大切にするのは、ゲーテのまなざしに近い読み方です。
色を描いて、心を取り戻した人々
色を描くことで、心を整えようとした人たちもいます。スイスの心理学者ユングは、自身が心の深い危機に直面した時期に、心に浮かぶイメージを、色鮮やかな絵と文字で一冊の大きな本に書き留めていきました。
長く公開されなかったこの記録は、2009年に『赤の書』として刊行され、ユングが絵を描くことで無意識と向き合っていた姿を伝えています。
また、イギリスの画家エイドリアン・ヒルは、結核の療養中に絵を描くことで心が回復していくのを感じ、ほかの患者たちにも絵を描くことを勧めました。ヒルは1942年ごろ、こうした取り組みを「アートセラピー」と呼び、これが、絵を描くことを心のケアに生かす方法が広まるきっかけの一つになったとされています。
チューブ絵の具が変えた絵画
では、絵の具そのものは、どのような道をたどってきたのでしょうか。
いまでは当たり前のチューブ入りの絵の具が生まれたのは、1841年のことです。アメリカの画家ジョン・ゴフ・ランドが、絵の具を詰めて持ち運べる金属製のチューブを考え出しました。
それまで画家たちは、顔料を自分で練り、豚の膀胱で作った袋などに入れて保存していたため、外へ持ち出して描くのは簡単ではありませんでした。
チューブ絵の具のおかげで、画家たちは屋外の光の中で、移り変わる景色をその場で描けるようになります。
印象派の画家ルノワールは、チューブ絵の具がなければ印象派は生まれなかった、という意味の言葉を残したと伝えられています。
四十八茶百鼠、制限の中の色
日本にも、色をめぐる豊かな文化があります。江戸時代、幕府はたびたび贅沢を禁じる「奢侈禁止令」を出し、庶民が派手な色の着物を着ることを制限しました。
そこで人々は、許された茶色や鼠色の中に、微妙な違いを工夫して、数えきれないほどの色を生み出していきました。
その豊かさは「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)」という言葉で語り継がれています。
限られた色の中にこそ、自分らしさを表す工夫が生まれたのです。
絵の具の夢が描こうとしている心の色
光としての色と、心で感じる色。色を描くことで、自分を取り戻そうとした人々。そして、制限の中でも新しい色を生み出してきた歴史。絵の具の夢は、あなたがいま、どんな色で自分の毎日を描きたいのかを、そっと問いかけているのかもしれません。
ここまでの内容をもとにした、SF仕立ての創作ストーリーは、こちらの夢物語でお楽しみいただけます。
よくある質問
夢の中の色の意味は、人によって違うのでしょうか?
色の意味には、多くの人が共通して感じやすいものがある一方で、一人ひとりの経験によって変わる部分もあります。
ゲーテが色を「感じる人の心」から考えたように、赤を情熱的だと感じる人もいれば、子どものころの大切な服の色として懐かしく感じる人もいるでしょう。
夢の中の色は、一般的な意味を参考にしながら、あなた自身がその色にどんな思い出や気持ちを重ねているかを考えてみると、より深く読み解けます。
絵を描くことが、本当に心を落ち着けることにつながるのですか?
アートセラピーの考え方では、言葉にしにくい気持ちを色や形にして外に出すことで、心の整理がしやすくなるとされています。
上手に描く必要はまったくありません。好きな色を一つ選んで、紙の上で自由に動かしてみるだけでも、気持ちが静かにほどけていくのを感じる人は少なくありません。
絵の具の夢が気になったときは、塗り絵や落書きなど、気軽な方法から試してみてください。
