
エプロンの夢が持つ基本的な意味については、こちらの夢占い記事で解説しています。
この記事では、なぜエプロンが、夢の中で「誰かを支えたい気持ち」と「役割への疲れ」の両方を映すのかを、世話をすることをまったく違う角度から見つめた二人の研究者の視点と、東西でエプロンが担ってきた意味の歴史から、掘り下げてみます。
一つ目の視点は、イギリスの小児科医で精神分析家のドナルド・ウィニコットです。ウィニコットは、数多くの母子と向き合う中で、子どもの心が健やかに育つためには、子どもを安心して包みこむ「抱える環境(ホールディング)」が欠かせないと考えました。
そして、その環境をつくるのは完璧な母親ではなく、子どもの求めにおおむね応えながらも、ときには応えそこねる「ほどよい母親」なのだと説きました。
小さな失敗があるからこそ、子どもは少しずつ自分の力で世界と向き合うことを覚えていく。世話とは、相手を育て、自分も育っていく営みだと考えたのです。
二つ目の視点は、アメリカの社会学者アーリー・ホックシールドです。
ホックシールドは1983年の著書『管理される心』の中で、客室乗務員などの仕事を調べ、職務として求められる笑顔や気配りのために、自分の感情を管理し続けることを「感情労働」と名づけました。
人を気づかい、温かく迎えることは、外からは自然な優しさに見えますが、実は大きなエネルギーを使う働きであり、続けるうちに、自分の本当の気持ちがわからなくなってしまうこともあると指摘したのです。
ウィニコットが、世話を「人を育てる温かな営み」として見つめたのに対して、ホックシールドは、その温かさの裏側にある「見えにくい労働」に光を当てたといえるでしょう。
エプロンの夢を見たとき、エプロンを結ぶ手が誇らしかったのか、それとも重たかったのか。
その感覚は、あなたにとっての世話や役割が、いま育む営みとして感じられているのか、それとも消耗する労働として感じられているのかを、教えてくれるのかもしれません。
では、エプロンそのものは、どのような道をたどってきたのでしょうか。
西洋で最も古い「エプロン」の記録の一つとして、よく挙げられるのが聖書です。
十七世紀に英語に翻訳された欽定訳聖書では、楽園で知恵の実を食べたアダムとイブが、自分たちが裸であることに気づき、いちじくの葉をつづり合わせて身につけたものが「エプロン」と訳されています。
人が最初に身につけた布は、身を守り、恥じらいを覆うためのものだったのです。
また、ヨーロッパの石工たちは、作業で服を守るために丈夫な前掛けを使っていました。石工の組合に由来するとされるフリーメイソンでは、白いエプロンが、誠実さや仕事への誇りを表す大切なしるしとして、今も儀式で用いられています。
ちなみに英語の「apron」は、もともと小さな布を意味する古いフランス語から来た「napron(ナプロン)」という言葉でした。
それが、「a napron」と言い続けられるうちに、「an apron」と聞き間違えられ、いまの形になったといわれています。
毎日身につける布の名前は、人々の暮らしの中で、少しずつ形を変えてきたのです。
日本でも、エプロンに通じる布は、それぞれの仕事の誇りとともにありました。江戸時代の商人や職人は、店の名前を染め抜いた前掛けをしめて働き、それは店の顔そのものでした。
明治の終わりごろには、着物の袖を汚さずに料理ができるようにと、東京の料理学校で割烹着が考え出されたといわれ、白い割烹着は、やがて台所に立つ人の姿として、多くの家庭に広がっていきました。
育てる世話と、見えにくい労働。恥じらいを覆う布から、誇りを示す布へ。そして、暮らしの中で形を変えながら受け継がれてきた名前と姿。エプロンの夢は、あなたがいま、誰のために、どんな気持ちでひもを結んでいるのかを、そっと問いかけているのかもしれません。
ここまでの内容をもとにした、文学仕立ての創作ストーリーは、こちらの夢物語でお楽しみいただけます。
よくある質問
エプロンの夢で、ひもがうまく結べなかったのはなぜですか?
ひもが結べない夢は、新しい役割を引き受けようとしているのに、まだ心の準備が追いついていない状態を表していることが多いものです。
ウィニコットが「ほどよさ」を大切にしたように、最初からうまくできなくても、少しずつ慣れていけば十分です。
また、誰かに背中のひもを結んでもらいたいという、支えを求める気持ちが隠れている場合もあります。
一人で頑張りすぎていないか、振り返ってみてください。
人のお世話をするのは好きなのに、エプロンの夢を見ると疲れを感じます。
人を気づかうことが好きな人ほど、ホックシールドのいう感情労働の疲れに、自分では気づきにくいものです。
好きでしていることでも、心のエネルギーは確かに使われています。夢の中の疲れは、あなたの優しさが足りないのではなく、優しさを注ぎ続けてきた証です。
誰のためでもない、自分のためだけにエプロンを外す時間を、意識してつくってみてください。


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