
エレベーターが落ちる夢が持つ基本的な意味については、こちらの夢占い記事で解説しています。
この記事では、なぜ「落ちる」という感覚が、夢の中でこれほど強い不安や驚きを呼び起こすのかを、落ちる夢をまったく違う角度から読み解いた二人の心理学者の視点と、眠りに落ちる瞬間に体の中で起きていることを探ってきた睡眠の研究から、掘り下げてみます。
誰もが見る「落ちる夢」
落ちる夢は、多くの人が一度は経験する「典型夢」の一つです。2003年にカナダの研究者トーレ・ニールセンらが大学生を対象に行った調査では、七割を超える人が、落ちる夢を見たことがあると答えました。
追いかけられる夢と並んで、もっともよく見られる夢の一つだったのです。エレベーターが落ちる夢は、この誰もが知る「落ちる感覚」に、閉ざされた箱に身をゆだねるという現代ならではの不安が重なった夢だといえるでしょう。
なぜ落ちる場面が、崖や階段ではなくエレベーターとして現れるのでしょうか。アメリカの心理学者カルヴィン・ホールや、その研究を受け継いだウィリアム・ドムホフらは、数多くの夢の記録を分析し、夢の内容は、起きているあいだの関心ごとや暮らしの場面と地続きになっていると考えました。
これは「連続性仮説」と呼ばれています。毎日のように高層ビルのエレベーターに乗り、見えない機械に身をゆだねて移動する現代の暮らしが、昔から人が抱いてきた落ちる不安に、新しい姿を与えているのかもしれません。
抱き上げられた日の浮遊感
一つ目の視点は、精神分析の創始者フロイトです。
フロイトは1900年に刊行した『夢判断』の中で、空を飛ぶ夢や落ちる夢を取り上げ、その感覚の源を、子どものころに大人に高く抱き上げられたり、揺すられたりして遊んだときの、あのふわりとした体の記憶に求めました。
怖さと楽しさが入り混じったその感覚が、大人になってから、夢の中でよみがえるのだと考えたのです。
高く上りすぎた心を引き戻す「補償」
二つ目の視点は、スイスの心理学者ユングです。ユングは、夢には、意識の偏りを補って心のバランスを取り戻そうとする「補償」の働きがあると考えました。
自分を実際以上に大きく見せようとしたり、周りの期待に応えようと高いところへ無理に上りつめたりしていると、夢は、その人を地上へ引き戻すように、落ちる場面を見せることがあるといいます。
フロイトが、落ちる感覚の中に「過去の体の記憶」を見たのに対して、ユングは「いまの心の偏りを正そうとする働き」を見たといえるでしょう。
エレベーターが落ちる夢で、怖さの中に、どこか懐かしいような浮遊感があったなら、フロイトの読み方が近いのかもしれません。
反対に、高い階から一気に落ちていく夢を、昇進や大きな期待を背負ったときに見たなら、ユングのいう補償の声に、耳を傾けてみるとよいでしょう。
眠りの入り口で、びくっとする体
一方で、落ちる夢には、体そのものの仕組みも関わっています。眠りに落ちかけた瞬間、体がびくっと大きく動き、落ちるような感覚とともに目が覚めた経験はないでしょうか。
これは「入眠時ミオクローヌス」とも呼ばれる筋肉の反射で、多くの人に起こるごく自然な現象です。
なぜこの反射が起こるのかは、まだはっきりとはわかっていませんが、疲れやストレス、カフェインの影響などで起こりやすくなるといわれています。
また、私たちの遠い祖先が樹の上で眠っていたころ、体の力が抜けて枝から落ちそうになったときに、とっさに体を立て直すための反射の名残ではないか、という興味深い仮説も唱えられています。
心の奥に残る、抱き上げられた日の浮遊感。高く上りすぎた心を引き戻そうとする、夢のバランスの働き。
そして、眠りの入り口で、いまも体を守ろうとしている古い反射。エレベーターが落ちる夢は、あなたの心と体が、いま、どこで無理をしていて、どこで足場を確かめたがっているのかを、そっと問いかけているのかもしれません。
ここまでの内容をもとにした、心理ホラー仕立ての創作ストーリーは、こちらの夢物語でお楽しみいただけます。
よくある質問
落ちる夢で、体がびくっとして目が覚めるのはなぜですか?
眠りに入るとき、体の筋肉は少しずつ力を抜いていきますが、その途中で、筋肉が一瞬だけ強く縮むことがあります。
これが入眠時の反射で、落ちる夢の感覚と重なると、本当に落ちたように感じて目が覚めるのです。
疲れがたまっているときや、寝る前にカフェインをとったとき、強いストレスを抱えているときに起こりやすいといわれます。
くり返す場合は、寝る前の過ごし方を少しゆったりと整えてみてください。
落ちる夢は、悪いことが起きる前ぶれなのでしょうか?
落ちる夢は、多くの人が見る、ごくありふれた夢です。フロイトやユングの考え方に照らしても、未来の出来事を予告するものというより、いまの心や体の状態を映していると読むのが自然です。
高いところから落ちる怖さを感じたなら、頑張りすぎや背負いすぎに気づくきっかけとして受け止めてみてください。
夢が教えてくれた足もとの不安定さを、現実で少しずつ整えていけば、夢の怖さも和らいでいきます。

