
あしたは、まちにまった遠足の日です。
はるとは、ふとんの中で、なんども目をあけました。まくらもとには、ぱんぱんにふくらんだ青いリュックサック。中には、おかあさんがつくってくれるおべんとうばこと、水とう、それから、きのう、だがしやさんで三十分もかけてえらんだ、おやつのふくろが入っています。
おやつは、三百円まで。
ラムネと、グミと、ちいさなチョコレート。あわせて二百九十八円。二円あまったのが、ちょっとじまんでした。
「はやく、あしたにならないかなあ」
そうつぶやいているうちに、はるとは、いつのまにか、ねむっていました。
ゆめの中で、はるとは、ひろい草はらに立っていました。
すると、せなかの青いリュックサックが、もぞもぞと動きだしました。リュックサックは、ぴょんと地面にとびおりると、ちいさな足をにょきっと出して、言いました。
「さきに、行ってるよ」
「あっ、まって!」
リュックサックは、とことこと、おかの上へのぼっていきます。はるとは、いっしょうけんめい、あとをおいかけました。
おかのてっぺんには、大きな木が一本、立っていました。その木の下に、だれかが、ひとりですわっています。せなかには、ぺしゃんこの、からっぽのリュックサック。
その子のかおを見ようとしたとき、目ざましどけいが、じりりりと鳴りました。
外は、ぴかぴかの青空でした。
「バナナは、おやつに入りますかあ」
出発の前、クラスのけんたくんが大きな声で聞いて、みんながどっとわらいました。先生も、わらいながら言いました。
「それでは、しゅっぱーつ」
二年一組は、二れつにならんで、みどりがおか公園へ歩きだしました。
田んぼのあぜみちでは、赤とんぼがすいすいとんでいます。川の水が、きらきら光っています。どんぐりをひろったり、葉っぱのにおいをかいだりしているうちに、はるとのむねの中は、風がふきぬけたみたいに、すうっとかるくなっていきました。
おひるごはんの時間です。
みんなが、それぞれのレジャーシートを広げて、おべんとうを食べはじめました。はるとも、おにぎりをほおばりながら、ふと、まわりを見まわしました。
公園のはしっこの、大きなくすのきの下。先月、はるとのクラスにてんこうしてきた、そうたくんが、ひとりですわっていました。
ゆめで見た、あの木とおなじだ、と、はるとは思いました。
そうたくんは、おべんとうを食べおわると、リュックサックの中を、なんどものぞきこんでいます。それから、こまったように、ひざをかかえてしまいました。
はるとは、おやつのふくろをにぎって、くすのきの下まで走っていきました。
「おやつ、わすれちゃったの?」
そうたくんは、目をまるくして、それから、ちいさくうなずきました。
「げんかんに、おいてきちゃった」
はるとは、ふくろをあけて、ラムネとグミとチョコレートを、レジャーシートの上にならべました。
「はんぶんこ、しよう」
ふたりは、ラムネを一つぶずつ、こうたいで口に入れました。しゅわっとして、すっぱくて、あまい味がしました。
「あ、いまの、ハクセキレイだよ」
そうたくんが、しっぽをふりながら歩く白と黒の鳥を指さしました。そうたくんは、鳥の名前を、たくさん知っていました。前にすんでいた町では、毎朝、おじいちゃんと鳥を見に行っていたのだそうです。
かえりみち、はるとは、そうたくんのとなりにならんで歩きました。おやつのふくろは、すっかりからっぽになっていたけれど、ふしぎと、むねの中は、行きよりもずっといっぱいでした。
「おうちにかえるまでが、遠足ですよ」
先生の声が、夕やけの空にひびきました。
その夜、はるとは、また、あのゆめを見ました。
ひろい草はらを、青いリュックサックが、とことこと歩いていきます。でも、きょうは、ひとりではありません。となりには、もう一つのリュックサックが、ならんで歩いていました。
二つのリュックサックは、おかのてっぺんの木の下で立ちどまると、なかよく、ふりかえりました。
まるで、「つぎの遠足も、いっしょに行こうね」と言っているみたいに。
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