
夜中に、ふっと目が覚めた。
部屋は静かで、カーテンの隙間から、街灯の光が一筋だけ差し込んでいる。いつもの寝室のはずなのに、体だけがどこか遠くに置き去りにされたみたいに、指先ひとつ動かせなかった。
声を出そうとしても、喉の奥で息が固まる。心臓だけが、やけに大きな音を立てていた。
胸の上に、何かが乗っている。
重さは、そう強くはない。けれど確かに、そこにある。恐怖で頭の中が真っ白になりながら、私は必死に、それが何なのか見極めようとした。獣のようなものか、それとも、もっと得体の知れない何かか。
逃げたくても、体はぴくりとも言うことを聞かない。ただ、まぶただけはかろうじて動く。薄目を開けたまま、私は暗闇の中で、その重みの正体を待った。
頭の中では、いろんな想像が渦を巻いていた。
子どもの頃に聞いた、誰かに押さえつけられるという話。
真っ暗な部屋の隅にうずくまる、輪郭のない何か。そういうものが、今まさに自分の上に乗っているのではないかと、心臓が縮み上がる。
それでも、叫ぶこともできず、私はただ、呼吸を数えることしかできなかった。
吸って、止めて、吐く。その単調な繰り返しだけが、暗闇の中で唯一、自分の意思で動かせるものだった。
不思議なことに、時間が経つほど、恐怖の輪郭が少しずつ緩んでいった。
それは、私を痛めつけようとする気配ではなかった。
むしろ、じっと、そこに留まろうとしているような。誰かが静かに寄り添って、動かないでいてくれているような、そんな重みだった。
思えば、ここ最近はずっと、気を張りっぱなしだった。
やらなければいけないことに追われて、眠っているあいだも、頭のどこかが休むことを忘れていたような気がする。
胸の上の重みが、ゆっくりと形を持ち始める。
毛並みのようなやわらかさ、体温のようなあたたかさ。それは獣でも、幽霊でもなく、ただ「休んでいい」と伝えるためだけに、そこに乗っているもののように感じられた。
私はもう、逃げようとするのをやめた。
抗うことをやめた瞬間、体の奥から、ふっと力が抜けていくのがわかった。指先が動く。胸の重みが、溶けるように消えていく。
目を開けると、いつもの天井が見えた。
時計を見ると、まだ夜明けまでは時間がある。もう一度眠れそうな気がして、私は布団を引き寄せた。
怖かったはずなのに、不思議と、悪い夢だったという感じがしない。
あの重みは、私を捕らえようとしていたのではなく、無理をしすぎた体が、無理やりにでも私を寝かしつけようとした、不器用なやり方だったのかもしれない。
そういえば、と私は思い出す。小さい頃、疲れて眠ってしまった夜、誰かがそっと毛布をかけ直してくれたことがあった。重みも、あたたかさも、あのときの感触とどこか似ていた気がする。
あれは誰かの手だったのか、それとも、自分自身の中にずっとあった何かだったのか。今となっては、もう確かめようがない。
次に同じ重みを感じたら、今度はもう少し早く、力を抜いてあげようと思う。
私はゆっくりと目を閉じた。

怖いものの正体は、たいてい、あなたを傷つけたいわけじゃないの。ただ不器用なだけで、本当はずっと、味方だったりするのよ。
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