
深夜、目が覚める少し前の夢は、ずっと降り続く雨の中にいた。
隣にいたはずの誰かは、気づけばずっと遠くにいて、私の傘の内側には入ってこようとしない。声をかけようとしても、雨音にかき消されて、言葉がちゃんと届いている気がしなかった。
いつからだろう、この人とこんなに距離ができてしまったのは。最後に交わした言葉も、もう思い出せない。
ただ、何か小さな行き違いが、気づかないうちに大きな溝になっていた、という感覚だけが胸に残っていた。
雨はやまない。傘を持たない私は、次第に全身が冷えていくのを感じながら、それでも足を止められずにいた。
追いかけているのか、逃げているのか、自分でもわからないまま、ただ歩き続けた。
名前を呼びたかった。でも、呼んだところで、この雨の向こうまで声が届く気がしなくて、口を開くたびに、言葉はただの息になって消えていった。
不意に、空が光った。
雷ではなく、もっと静かな光だった。見上げると、灰色の雲の切れ間から、驚くほど淡い光が差し込んでいる。雨はまだ降っていたけれど、その一角だけ、まるで別の時間が流れているようだった。
そして、気づけば空に、大きな弧が架かっていた。
虹だった。
遠くにいたはずの人が、いつの間にか、すぐそばに立っていた。同じ虹を見上げていた。どちらからともなく、私たちは少しだけ、肩の力を抜いた。
「ずっと、怒ってるのかと思ってた」
その人が、ぽつりとそう言った。私は首を振った。怒っていたわけじゃない。ただ、どう歩み寄ればいいのか、わからなくなっていただけだった。
虹は、届かないもののように見えて、実はいつも、離れたふたつの場所から同時に見える橋なのだと、そのとき初めて気がついた。私たちは、別々の場所で、同じ雨に濡れて、同じ光を見ていた。近づく方法をわざわざ探さなくても、見上げる先は、ずっと同じところにあったのだ。
「濡れたね」と、私は言った。
「うん」と、その人は笑った。
それだけで、十分だった。何かを説明する必要も、あらためて謝る必要も、もうない気がした。虹が消えるまでの、ほんの短いあいだ。私たちはただ、並んで空を見上げていた。
目が覚めたとき、枕元にはまだ雨の匂いが残っているような気がした。窓の外は、静かに晴れていた。
あの人に、連絡してみようか。そう思った自分に、少しだけ驚いた。何を話すかは、まだ決めていない。ただ、雨上がりの空くらい軽い気持ちで、声をかけてみてもいいのかもしれない。
架け橋は、遠くから架けにいくものじゃない。ただ、同じ空を見上げればいい。そのことを、夢の中の虹が、そっと教えてくれた気がした。

虹はね、追いかけているうちは、いつまでも届かないものなの。でも、ふと立ち止まって同じ空を見上げたときだけ、ちゃんとそこにいてくれる。あなたの橋も、きっともう半分は架かっているわよ。
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